奪取と切断の現象学:テイカー、スライサー、マニピュレーターに関する実存的・心理学的包括な視点
第1章 序論:後期近代における「つながり」の病理と実存の危機
現代の人間関係において、他者から資源、エネルギー、そして尊厳を収奪する捕食的な存在形式が、かつてないほど多様な相貌を見せている。
それらは臨床的な「自己愛性パーソナリティ障害」や「サイコパス」といった診断名を超え、より機能的かつ日常的な記述概念として、「テイカー(Taker)」、「マニピュレーター(Manipulator)」、そして近年提唱された「スライサー(Slicer)」という名称で分類され始めている。
人間性心理学の視座に立てば、これらの存在は単なる「迷惑な人々」ではなく、現代社会が抱える「つながりの病理」の具現化であり、彼ら自身もまた、他者を搾取することでしか自己の輪郭を保てないという実存的な空虚(Existential Void)に囚われた存在であると捉えることができる。
本プロジェクト『夜明けの図書室』が掲げる「生存(Survival)から実存(Thrival)へ」という理念 1 は、この問題の本質を鋭く射抜いている。
奪う者たちは、表面的には社会的成功者や強者に見えたとしても、その内実は「生存(Survival)」モードの極限状態——すなわち、他者を蹴落とさなければ自分が滅びるというゼロサム・ゲームの世界観——に幽閉されている。
本記事では、これらの収奪的アーキタイプ(原型)の現象学的特徴を精緻に分析し、その発生機序を心理学・社会学・脳科学の多層的観点から解明するものである。
さらに、被害者が「奪われる客体」から「自律した主体」へと回復するためのプロセスを、内的コントロール心理学(選択理論)2、ジェンドリンの体験過程理論 3、および心理的危機対応プラン(PCOP)1 の技法を統合し、具体的かつ実践的なメンタルヘルス防衛策として体系化することを目的とする。
第2章 収奪的実存の現象学:三つのアーキタイプの構造分析
「奪う」という行為は一様ではない。
それは暴力的な強奪から、気づかれないほどの微細な浸食まで、グラデーションを成している。
防衛のためには、まず相手がどのような「構え(Gestalt)」で世界と対峙しているかを理解する必要がある。
2.1 テイカー(The Taker):顕在的収奪とゼロサム的世界観
組織心理学者アダム・グラントによって提唱された「テイカー」は、最も原初的かつ顕在的な収奪者である。
彼らの行動原理は「与えるよりも多くを受け取る」ことにあり、世界を「勝つか負けるか(WIN-LOSE)」の闘争の場として認知している 5。
2.1.1 「レック(Lek)」行動と存在的優越の誇示
テイカーを識別する鍵となるのが、動物行動学に由来する「レック(Lek)」行動である。
これは求愛のためにオスが集まり、自らの優越性を誇示する行動を指すが、人間社会におけるテイカーは、この「優位性の誇示」を病的なまでに反復する 5。
- 視覚的支配:
企業の年次報告書やプレゼンテーションにおいて、テイカー的なリーダーは自身の写真を極端に大きく、かつ中心に配置する傾向がある。
これは「この組織は私の所有物(拡張された自己)である」という無意識のメッセージであり、他者を背景化することで自己を前景化するナルシシズムの視覚的表出である 5。 - 言語的自己中心性:
テイカーの使用言語は、一人称単数(I, me, my)に著しく偏る。
一般的なCEOの「私」の使用率が23%であるのに対し、テイカーCEOは39%に達するというデータ 5 は、彼らの意識において「我々(We)」という共同体感覚が欠落し、世界が「私」によってのみ構成されていることを示唆している。 - 影響力の誇示:
「あなたが影響を与えた人物を4人挙げよ」という問いに対し、テイカーは自分より地位や権力のある人物の名を挙げる
5。
これは、彼らににとって人間関係が「道具(手段)」であり、影響力とは「下位者を育てること(Giver的態度)」ではなく、「上位者に取り入ること」を意味しているからである。
2.2 マニピュレーター(The Manipulator):潜在的攻撃性と「羊の皮」
テイカーが「力の論理」で動くならば、マニピュレーターは「情動の論理」をハッキングする存在である。
ジョージ・サイモンが「羊の皮をかぶった狼」と形容したように、彼らの本質は「潜在的攻撃性(Latent Aggression)」にある 5。
2.2.1 間接的支配のメカニズム
マニピュレーターは直接的な対立を回避し、罪悪感や羞恥心を刺激することで他者をコントロールする。
- 偽装された善意:
競合者を排除する際、彼らは「あなたのためを思って言っている」「チーム全体の利益のために」という道徳的仮面を被る
5。
これにより、被害者は攻撃されているにもかかわらず、「助言を受けている」という認知的不協和に陥らされ、反撃の機会を奪われる。 - 無知の装い:
都合の悪い事態(秘密の漏洩や約束の不履行)が発生した際、彼らは「天然ボケ」や「無知」を装う
5。
意図的な悪意を「過失」として再フレーミングすることで、責任追及を回避し、被害者を「許容せざるを得ない立場」に追い込む高度な対人戦術である。
2.3 スライサー(The Slicer):微細な浸食と「モヤモヤ」の正体
近年、尾石晴によって言語化された「スライサー」という概念は、従来の「悪人」カテゴリーには収まりきらない、しかし確実に他者を消耗させる存在を捉えている 5。
彼らはサラミを薄くスライスするように、他者の時間、善意、金銭を微量ずつ削ぎ落としていく。
2.3.1 損失回避と「水面下の搾取」
スライサーの根底にあるのは、強烈な「損失回避バイアス」と「絶対に自分だけは損をしたくない」という強迫観念である 5。
- 認知の非対称性:
割り勘の際の端数切り捨てや、簡単な調べ物を他者に依存するといった行動は、単発では「些細なこと」として看過される。
5。
しかし、これが常態化することで、被害者の側には「モヤモヤ」という身体感覚(フェルトセンス)が蓄積していく - 代理発話の強要:
自分が言いにくいことを他者に言わせる(「あなたがリーダーに言ってよ」)という行動は、社会的リスクの転嫁であり、他者の「勇気」という資源の窃盗に他ならない
5。
スライサーは、テイカーほど能動的ではないが、受動的攻撃性によって他者のリソースを吸い上げる「エナジーバンパイア」の亜種と言える。
表1:収奪的アーキタイプの比較現象学
|
アーキタイプ |
核心的動機 |
主要な手口(Modus Operandi) |
被害者の身体感覚(Felt Sense) |
識別キー |
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テイカー |
優越性の確保・最大利得 |
成果の横取り、独占的発言、地位誇示 |
圧倒される感覚、無力感、搾取された疲労 |
写真の配置、一人称の多用、権力者への言及 |
|
マニピュレーター |
他者の操縦・支配 |
罪悪感の喚起、善意の偽装、責任転嫁 |
混乱、自分を責める気持ち、「私が悪いの?」 |
行動と意図の乖離、被害者ポジションの巧みさ |
|
スライサー |
損失の完全回避 |
微細な依存、端数の転嫁、リスクの外注 |
正体不明の「モヤモヤ」、違和感、苛立ち |
「べき」の侵害、「ちりつも」の不快感 |
第3章 発生の背景:なぜ「奪う人」は生まれるのか
彼らはなぜ、他者を「汝(Thou)」としてではなく「それ(It)」6 として扱うのか。
その背景には、個人的な精神病理だけでなく、現代社会特有の構造的要因が深く関与している。
3.1 社会的・歴史的要因:新自由主義と共感の摩耗
3.1.1 新自由主義的自己の肥大化
1980年代以降、加速した新自由主義(Neoliberalism)は、あらゆる人間関係を市場原理に基づいた「取引(Transaction)」へと変質させた 7。
競争原理が内面化された社会では、「自己最適化」と「利益最大化」が至上の徳とされ、他者への配慮は「非効率」として切り捨てられる。
- この環境下では、テイカー的な振る舞い(自己PR、成果の強調)が「リーダーシップ」や「有能さ」として誤認され、組織内で昇進しやすいというパラドックスが生じる 5。
社会システム自体が、ナルシシズムを強化し、共感性を「弱さ」とみなす文化的土壌を形成しているのである。
3.1.2 デジタル・ナルシシズムと承認の渇望
SNSの普及は、「見られる自己」への過剰な注力を促した。「いいね」やフォロワー数が人間の価値指標となるデジタル空間は、テイカーにとって格好の狩場であり、自己愛的な供給(Narcissistic Supply)を得るための無限のレック(求愛・誇示)の場となっている 5。
過剰な加工や露出 5 は、空虚な自己を埋めるための必死のパフォーマンスであり、彼らが他者と深くつながること(Intimacy)よりも、他者から見られること(Visibility)に実存の軸足を置いていることを示している。
3.2 心理的・実存的要因:ダーク・トライアドと愛着の傷
3.2.1 ダーク・トライアドの影
心理学的に、テイカーやマニピュレーターは「ダーク・トライアド(Dark Triad)」と呼ばれる性格特性と高い相関を示す 10。
- ナルシシズム(Narcissism):
特権意識と共感の欠如。テイカーの「私は特別である」という認知の基盤。 - マキャベリアニズム(Machiavellianism):
他者を操作し、自己利益のために利用する冷徹な計算高さ。マニピュレーターの中核特性 13。 - サイコパシー(Psychopathy): 衝動性と罪悪感の欠如。
これらは単なる「性格」ではなく、他者との情緒的な絆を結ぶ能力の欠損を示している。
研究によれば、これらの特性を持つ人々は、パートナーとの接触(タッチ)さえも愛情表現ではなく、支配の手段として用いることが明らかになっている 10。
3.2.2 不安型愛着と「空虚な自己」
深層心理学的視点、あるいは仏教的視点で見れば、彼らは「餓鬼(Hungry Ghost)」の状態にある。
マズローの欲求階層説やボウルビィの愛着理論 15 を参照すれば、彼らの根底にあるのは「根源的な安心感の欠如」である。
幼少期において、ありのままの存在を受容される体験(安全基地)が不足していたため、他者を「利用価値」でしか評価できず、常に「奪わなければ奪われる」「支配しなければ支配される」というパラノイア的な生存戦略(Survival Strategy)にしがみついているのである 17。
スライサーの「損をしたくない」という心理も、実存的な資源が枯渇しているという深層の恐怖(欠乏動機)に由来すると考えられる。
彼らは「余裕」がないために、ほんのわずかなリソースの流出さえも、自己の生存を脅かす危機として知覚してしまうのである。
3.3 進化心理学的視点:搾取の適応戦略
進化心理学的には、集団内での「フリーライダー(ただ乗り)」戦略として説明できる 19。
協力的な集団の中で、少数の搾取者はコストを払わずに利益を得ることで一時的に高い適応度を示す。
しかし、これに対抗するために人間は「裏切り者検知モジュール」を進化させてきた。
スライサーやマニピュレーターが「微細な」搾取や「善人の偽装」を行うのは、この検知システムを回避するための軍拡競争的な進化の結果とも解釈できる 20。
第4章 被害の構造:「ギバー」はなぜ狙われるのか
被害に遭いやすい人々、特にアダム・グラントの言う「ギバー(Giver)」5 は、単に運が悪かったわけではない。
そこには搾取者と被害者を引き合わせる構造的な鍵と鍵穴の関係が存在する。
4.1 「自己犠牲型ギバー」の罠
他者の利益を優先するギバーは、社会にとって不可欠な存在だが、境界線(バウンダリー)を持たない「自己犠牲型」の場合、テイカーにとって格好の餌食となる 5。
- 「べき」の呪縛:
スライサーに搾取される人々は、「困っている人は助ける
べき」「器の小さい人間だと思われてはいけない」といった強力な超自我(Super-ego)や「べき思考(Beki)」に縛られていることが多い 5。
この内面化された規範が、不当な要求を拒絶する際のブレーキとなり、自ら搾取を受け入れてしまう。 - 投影同一化:
被害者はしばしば、自身の善意や良心を相手に投影し、「彼らにも悪気はないはずだ」「話せばわかるはずだ」と誤認する
5。
これはマルティン・ブーバーの言う「我-汝(I-Thou)」の関係性を、相手も持っているはずだと信じ込む美しい誤解であるが、相手が「我-それ(I-It)」のモードで接している場合、この信頼は致命的な脆弱性となる 6。
第5章 メンタルヘルス防衛策:生存(Survival)から実存(Thrival)への回復
「奪う人」からの防衛は、単なる対処療法の技術ではない。
それは、他者による支配(外的コントロール)から脱却し、自らの人生の主導権(内的コントロール)を取り戻す実存的な闘争である。
以下に、認知・行動・実存の3つのフェーズに分けた包括的防衛策を提案する。
フェーズ1:認知的防衛 —— 「霧」を晴らし、実態を見抜く
被害の第一段階は、混乱と自己疑念(ガスライティング効果)である。
まずは客観的な指標を用いて、相手の正体を認識する必要がある。
- 「べきログ(Beki-Log)」による不快感の可視化 5: スライサーによる「モヤモヤ」を感じた際、それを放置せず記録する。
- 事実: 「Aさんがまた端数を払わなかった」
- 侵害された価値: 「自分の分は自分で払うべき」「公平であるべき」
- 重要度: 数値化する。
この作業により、漠然とした不快感が「価値観の侵害」という明確な事実として認識され、正当な怒り(Anger)として処理可能になる。
- 行動と意図の分離(Judge by Actions) 5:
マニピュレーターの「悪気はなかった」「あなたのため」という言葉(意図の表明)を無視し、結果(行動的事実)のみを評価する。
- 事実: 「秘密が漏洩した」「仕事が押し付けられた」
- 対策: 「過失」ではなく「信頼に値しない行動」としてラベルを貼り直す。
- レック行動と代名詞の監査 5:
相手のSNSや発言を分析する。
「私(I)」の多用、過剰な自撮りや加工、権力者との繋がりの誇示を確認する。
「誰に影響を与えたか?」という質問を心の中で(あるいは実際に)投げかけ、その回答が「上」を向いているか「下」を向いているかを見極める。
フェーズ2:行動的防衛 —— 境界線の構築と遮断
認識ができたら、次は物理的・心理的な距離を取る技術が必要となる。
- グレイ・ロック法(The Grey Rock Method) 22:
サイコパスやナルシシストへの最も有効な対処法。文字通り「道端の灰色の石」のように振る舞う。
- 感情を見せない。
- 反応を最小限にする(「そうですか」「なるほど」)。
- 自己開示をしない。
テイカーやマニピュレーターは、相手の感情的反応(ドラマ)や供給(Supply)を求めている。
反応を断つことで、彼らにとっての「面白味」を消滅させ、ターゲットから外れるように仕向ける学習消去の原理である。
- 「他者志向型ギバー」への転換(Generous Tit-for-Tat) 5:
自己犠牲をやめ、「寛大なしっぺ返し(Generous Tit-for-Tat)」戦略を採用する。
基本はギバーとして振る舞うが、相手がテイカーだと判明した瞬間に「与えること」を停止し、防衛に転じる。
ただし、相手が態度を改めれば、再び協力する余地を残す。
これにより、搾取を防ぎつつ、建設的な関係の可能性を閉ざさない。 - ウィン・ウィン交渉と戦略的譲歩 5:
マニピュレーターに対しては、道徳的説得は無効である。彼らの利害(損得)に訴える。
「私が疲弊すると、あなたのプロジェクトの成果も落ちます」と提示するか、あるいは被害を最小限に抑えるために「小さな手柄(肉)」を与えて、それ以上の干渉を防ぐ取引を行う。
フェーズ3:実存的防衛と回復 —— 内的コントロールとPCOP
被害が深刻で、希死念慮や強烈な自己否定に陥っている場合、より深いレベルでのケアが必要となる。
- PCOP(心理的危機対応プラン)の策定 1:
限界状況においては、思考能力が低下する。あらかじめ「危機」に対処する手順をカード化しておく。
- 警告サイン: 「死にたい」と思った時、身体はどう反応しているか。
- セルフマネジメント: その場でできる対処(呼吸法、氷を握るなど)。
- サポーター: 安全に頼れる人、あるいは「推し」やペットなど、心を温めるイメージ。
- このプランは、奪われた「自己コントロール感」を取り戻すための命綱となる。
- 内的コントロール心理学(選択理論)の実践 2:
「他人は変えられない、変えられるのは自分だけ」という原則を徹底する。
テイカーが変わることを期待する(外的コントロール)のをやめ、「離れる」「反応しない」「NOと言う」という自分の行動を選択する。
これは諦めではなく、自分の人生の操縦桿を握り直す行為である。 - フォーカシングとフェルトセンスの回復 3:
被害者は長期間のガスライティングにより、自分の感覚(違和感)を信じられなくなっている。
ジェンドリンのフォーカシングを用い、身体の奥にある「なんとなく変だ(モヤモヤ)」というフェルトセンスに耳を傾ける。
「ああ、私は搾取されて悲しかったのだ」と身体感覚と言葉が一致(交差)した時、真の理解と癒やし(フェルトシフト)が生じ、被害者としての物語から脱却できる。
第6章 架空事例による再構成:生存から実存への旅
リサーチで得られた知見を統合し、典型的な搾取のダイナミクスとその克服プロセスを架空の事例として提示する。
事例A:職場の「善意」の捕食者(戦略的テイカー/マニピュレーター)
状況:
中堅社員のサトウ(仮名)は、上司のカトウ部長に目をかけられていた。カトウは「君は才能がある。他の部署は君を評価していないが、私だけはわかっている」と囁き(孤立化工作)、サトウに膨大な業務を押し付けた。カトウのSNSは業界の有力者とのツーショット写真で埋め尽くされ(レック行動)、部下の成果は「私のチームの功績(主語がI)」として報告されていた。サトウは疲弊していたが、「期待に応えなければ(べき思考)」と自分を追い込んでいた。
転機:
あるプロジェクトでトラブルが起きた際、カトウは「サトウ君の独断でした」と責任を転嫁しつつ、サトウには「君のためを思って庇っておいたよ」と嘘をついた。この矛盾に直面し、サトウは違和感(フェルトセンス)を無視できなくなった。
対策と回復:
- 認識: サトウは「影響を与えた人物」の質問を心の中でカトウに当てはめ、彼が上しか見ていないことを確信した。
- 行動: グレイ・ロック法を発動。カトウからの「君のため」という情緒的揺さぶりに対し、「ご助言ありがとうございます。記録に残すためメールで指示をいただけますか」と事務的に対応(行動と意図の分離)。
- 実存: 自分が「認められたい」という欠乏動機からカトウに依存していたことを認め(内的コントロール)、評価軸を外部から内部へ移した。サトウは部署異動を申し出たが、その理由は「カトウ部長の教えを全社に広めるため」という、カトウの自尊心を満たす(ウィン・ウィン交渉)建前を使い、スムーズに脱出した。
事例B:友人の顔をした浸食者(スライサー)
状況:
ユウコ(仮名)には長年の友人ミカがいる。ミカは決して財布を出そうとせず「小銭がないから後で」と言い、結局払わない。
旅行の計画も「ユウコちゃんの方が詳しいから」と丸投げする。
ユウコは「数百円のことで怒るなんてケチだ」と自分を責めていた。
対策と回復:
ユウコは「べきログ」をつけ始めた。「友人は対等であるべき」という価値観が侵害されていることに気づく。
次にミカが「これ、どうなってるの?」と調べて当然のことを聞いてきた時、ユウコは「スマホで検索したらすぐ出るよ」と笑顔で突き放した(サンクション)。
ミカは不満げな顔をしたが、ユウコは「嫌われてもいい(課題の分離)」と腹を括った。
結果、ミカは離れていったが、ユウコは深い安堵感(Thrival)を得た。
第7章 結論:聖域(サンクチュアリ)の構築
テイカー、スライサー、マニピュレーターという存在は、現代社会における「関係性の公害」である。
彼らは他者の心に土足で踏み込み、その資源を食い荒らす。
しかし、彼らの存在を単に忌避するだけでなく、なぜ彼らが生まれ、なぜ我々が彼らに巻き込まれるのかを深く理解することは、我々自身の「生き方」を問い直す契機となる。
防衛の最終目的は、彼らを倒すことではない。
彼らと同じ「生存(Survival)」の土俵——奪い合い、騙し合い、勝ち負けを争う修羅の巷——から降りることである。
そして、自分の心の中に、誰も侵入させない静寂な「聖域(Sanctuary)」1 を構築することである。
そこは、自分の感覚(フェルトセンス)が尊重され、条件付きの承認ではなく、存在そのものが肯定される場所である。
PCOPやフォーカシング、アンガーマネジメントといった技術は、この聖域を守るための城壁であり、武器である。
我々は「奪われる者」から「守り、育む者」へと変容できる。
その時初めて、人間関係は「搾取」から「共生(Thrival)」へと、その質を劇的に変えることができるのである。
巻末資料:主要概念と対策マトリクス
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概念 |
概要 |
出典・関連理論 |
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レック(Lek)行動 |
優越性の誇示。写真配置、SNSでの露出、一人称多用。 |
進化心理学、Adam Grant 5 |
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グレイ・ロック法 |
岩のように無反応を貫き、搾取者の興味を削ぐ。 |
行動心理学(消去)23 |
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べきログ(Beki-Log) |
怒りの背後にある価値観(べき)を可視化する。 |
アンガーマネジメント 5 |
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PCOP |
心理的危機に際しての対処プラン(警告サイン、サポーター等)。 |
認知行動療法、危機介入 4 |
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内的コントロール |
他人は変えられないという前提に立ち、自らの行動を選択する。 |
選択理論心理学 2 |
|
フェルトセンス |
言葉になる前の身体的実感。直感的な違和感。 |
ジェンドリン(フォーカシング)3 |
以上
引用文献
- 内部資料の数々より統合したもの、他は下記。
- ティカー、スライサー、マニピュレーター対策
- Martin Buber: Are you a 'thou' or an 'it'? - Saybrook University, https://www.saybrook.edu/unbound/martin-buber-prejudgment/
- Narcissistic Rage and Neoliberal Reproduction - ResearchGate, https://www.researchgate.net/publication/313735283_Narcissistic_Rage_and_Neoliberal_Reproduction
- Narcissism and Neo-liberalism: Work, Leisure, and Alienation in an Era of Consumption - OPUS at UTS, https://opus.lib.uts.edu.au/bitstream/10453/10289/1/2008002436.pdf
- Byung-Chul Han and the Psychological Dimensions of Neoliberalism, https://www.psychologytoday.com/us/blog/philosophies-in-psychology/202411/byung-chul-han-and-the-psychological-dimensions-of
- People with dark personality traits use touch to manipulate their partners - Binghamton News, https://www.binghamton.edu/news/story/5859/people-with-dark-personality-traits-use-touch-to-manipulate-their-partners
- Dark triad - Wikipedia, https://en.wikipedia.org/wiki/Dark_triad
- Cognitive Empathy and the Dark Triad: A Literature Review - PMC - NIH, https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10670677/
- Machiavellianism, Relationship Satisfaction, and Romantic Relationship Quality - PMC, https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5590532/
- Are You Being Manipulated? Understanding Machiavellian Tactics in Relationships, https://mentalzon.com/en/post/2436/are-you-being-manipulated-understanding-machiavellian-tactics-in-relationships
- Analysis of the relationship between attachment styles and the dark triad (Machiavellianism, narcissism and psychopathy) - MLS Journals, https://www.mlsjournals.com/Psychology-Research-Journal/article/view/1573/1217
- The Dark Triad, Love Components, and Attachment Styles in Romantic Relationship Experiencing During Young Adulthood, https://interpersona.psychopen.eu/index.php/interpersona/article/view/4687/4687.html
- Exploring The Concept Of Narcissistic Supply - BetterHelp, https://www.betterhelp.com/advice/personality-disorders/exploring-the-concept-of-narcissistic-supply/
- Narcissistic Boredom vs. Narcissistic Emptiness - Psychology Today, https://www.psychologytoday.com/us/blog/understanding-ptsd/202512/narcissistic-boredom-vs-narcissistic-emptiness
- To punish or repair? Evolutionary psychology and lay intuitions about modern criminal justice - PMC - NIH, https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3569042/
- The evolution of manipulative cheating - eLife, https://elifesciences.org/articles/80611
- Remembering Martin Buber and the I–Thou in counseling, https://www.counseling.org/publications/counseling-today-magazine/article-archive/article/legacy/remembering-martin-buber-and-the-i-thou-in-counseling
- What Is the Grey Rock Method and Is It Effective? - Cerebral, https://www.resiliencelab.us/thought-lab/grey-rock-method
- The Grey Rock Method: A Technique for Handling Toxic Behavior - Psych Central, https://psychcentral.com/health/grey-rock-method
- The Price and Payoff of a Gray Rock Strategy | Psychology Today, https://www.psychologytoday.com/us/blog/toxic-relationships/201911/the-price-and-payoff-gray-rock-strategy


